GM破産申請に思う-日本の政策の転換点

米政府は5月31日夜(日本時間6月1日午前)、米ゼネラル・モーターズ(GM)が1日に、米連邦破産法11章(日本の民事再生法に相当)の適用を申請すると発表した。
 今年3月末時点のGMの負債額は1728億ドル(約16兆4100億円)で、製造業としては世界最大の経営破綻(はたん)となる。米政府はGMに最大301億ドルを追加融資し、破産手続きを経て設立する「新GM」の約60%の株式を保有、事実上国有化して再建を全面支援する。米メディアによると、GMの破産法申請は1日午前8時(日本時間午後9時)の見込みだ。

米国経済を代表する自動車産業の最大手であるGMが破綻したことは、その経済的影響の大きさのみならず、米国の外交、経済、文化を含めその政治政策に追随してきたわが国にあって、その方向性を大きく転換せざるを得ない衝撃的な出来事である。

米国はルーズベルト政権からニクソン・フォード政権の頃まで、福祉国家的な「大きな政府」を追及してきた。それが巨額の財政赤字で行き詰まり、民主党のカーター政権の頃から規制緩和、つまり政府の介入の縮小と民間企業活動の自由放任、いわゆる市場原理の導入が始まり、その方向へ大きく舵を切ったのが共和党のレーガン政権である。さらにブッシュ政権によって、市場原理が極限まで放任され、暴走の揚げ句に破綻を招来し、ついに調整が必要になったということであろう。

2008年11月15日からワシントンで開催されたG20、いわゆる金融サミットは過去30年にわたって世界を震撼させてきた米英の市場原理主義そのものを問うものであった。金融サミットでは、米国の主張も両論併記されたものの、最大の争点であった市場の政府介入については格付け会社に関しては名指しで規制・監督の強化や登録制の導入、ヘッジファンドに関しては規制・監督の対象とすることが鮮明に打ち出された。格付け会社とヘッジファンドに対する規制・監督の強化は、今回に金融危機が顕在化する以前、米国最大のエネルギー会社エンロン破綻事件の頃からEU諸国が求めてきたものである。EU・新興諸国の勝利といえる結果になった。

2008年11月16日の『産経新聞』によると、日本の外務省は「ドル機軸体制」と「自由な市場原理主義」の二原則の維持について英国の支持を取りつけるなど、舞台裏で援護射撃に動いたという。わが国は戦後長らく、あらゆる面で米国に依存することによって繁栄を享受してきた。だが、泰平の世は終わり、市場原理主義が破綻し米国モデルが自壊を始めた。GMの破綻は、その象徴的な事件である。

わが国はいまや好むと好まざるとにかかわらず、米国の庇護下から脱却せざるをえない事態に直面している。米国の顔色ばかりを窺うことをやめ、アジア諸国、EU、イスラム世界とも正面から向かい合うような外交を重ねていく必要性が求められてきている。

また、わが国においては、政府の経済政策として「規制緩和」「構造改革」といった改革が推し進められてきたが、その改革の結果について問い直す必要がある。まだ、改革は道半ばという経済学者、政治家(特に自民党の上げ潮派)もいるが、商店街が「シャッター通り」になる等経済の空洞化が進み、規制緩和を利用した悪徳業者がやりたい放題やって国民が被害に遭う現実をみると、これらの改革が国益に資してきたのか疑わしい。

そろそろ、「官から民へ」「民にできることは民にやらせろ」という米国流の「小さな政府」を志向した「構造改革」などというまやかしは撤回すべきである。米国主導の「構造改革」が極限まで進められたのが小泉政権下であり、その頂点が平成17年の郵政民営化であった。米国の要望を実現するために衆議院の解散・総選挙までもが強行され、今になって振り返れば決して日本の国益に資するものでなく、結局、市場中心主義という米国流の理念と、日本でのビジネスチャンスの拡大を求める米国金融資本の利益に基づくものであったことが理解できる。

わが国は、経済政策や社会保障政策については戦後、「大きな政府」、行政府の介入と所得再配分を是とする社会民主主義的な政策をとってきた。また。企業においては、米国流の個人主義とは似ても似つかない「共同体」を中心とした集団主義的な社会を築きあげてきた。日本人が一番力を発揮できるのは、組織化されたときであり、なんらかの共同体に帰属し、後顧の憂いを払拭して行動できるとき、安心して仕事に没頭できるのではないかと思われる。それには、雇用制度の規制緩和によって非正規雇用化が推し進められ、「会社共同体」が解体を招いているような現状を改め、また健康の面でも世界一といわれる現在の国民皆保険制度を維持発展させ、健康、仕事、老後のすべてにおいて安心感を与える政策を打ち出していく必要がある。

いまや米国の市場中心主義は破綻したといえる。オバマ政権の金融機関への公的資金の導入、GMの国有化等の政策により、政府の世界は市場の時代から国家の時代へと回帰しているように見える。わが国は米国への依存や追従から脱却し、自らの国家戦略と政府の機能を再構築すべき時期にきている。

                                            IAU代表社員 樋口 秀夫